工房

漆講座「お椀をつくる」

今回の漆講座は、お椀をふたつ。
山中の木地屋さんが桜をくりぬいたお椀の原型の
ふちと底面を布で補強し、下地を塗って滑らかにし、
漆を重ねる。
下地も漆も、一度塗って乾かしたら
水で濡らした紙ヤスリで研ぎ、
凸凹が取れたかどうか手触りを確かめてまた塗る。
以下繰り返し。三歩進んで二歩下がる~、の世界だ。
じゃあ、厚めに塗ればすぐ完成するんじゃないの?
厚めに塗る方がなめらかに仕上がるんじゃないの? と
思うところだが、出来るだけ薄くうすく引き延ばす感じで
漆をひっぱるのが骨法みたいだ。
厚い漆は乾燥の途中でしわしわ~となってしまうらしいし、
薄く延ばすのが均一に塗る一番の近道のような気がする。
粘度のある液体に残された筆のあとも、薄い方が
時間の経過とともに自然に馴染んで見えなくなるような。

個人的には、マットな感じの仕上がりの方が好き。でも、
金沢人の相方は、艶のある器物を漆らしいと感じる様子。
成程、と、今回はつややかに仕上げる算段をする。
イメージは、今家で使っているお椀。
内側(汁物が触れる部分)と高台の中は共に黒、
外側は黒いのと朱色のと。
使っているのは、黒い方は少し慣れて表面が透けている。
その感じも好ましいけれど、
ぽってりと厚みを感じる黄口(きくち)と呼ばれる
朱色の漆が一番好きだ。
他に、緑や紫、白い漆もあるってご存知でしたか?
白い漆、なんてどんなふうに使うんだろうね?

それで、今回は(一段と)執念深く紙ヤスリをかけ、
慎重に漆を引き延ばして塗っている。
曲線に蛍光灯が映り込むのを見ては、にやり、と
骨董好きなご隠居の如くほくそ笑む私。
こういう作業は大好きだ。
あと二回重ね塗りしたら完成。仕上げはいつものように
「黒幕」(漆講師のnさん)がこっそりと
手を入れてくれる筈…(いつもありがとう~)。

高温多湿な今の時期、漆は驚くほどの早さで安定していく。
空気が湿っている方が乾く、という不思議さよ。
そんな漆が好きだなあと思い始めてから、
意識して関係文書を読んでいる。
一番印象に残っているのは、木地師の仕事場のレポート。
木地のデザインが薄すぎて破れてしまったその形だ。
漆の器物というと、骨董の一分野であるからか
堅牢なイメージがある。
でも本当は、その破れた木地が語るように、
ひとつひとつは柔らかい手作業の工程が
積み重なって出来ているのだ。複雑な構成の菓子のように。
日常の使用のなかで手に馴染んで風合いが変わるところが、
とてもいとおしい。

漆の器物は、完成したあと半年ほど寝かせて
「枯らし」てからつかう。
このお椀の初舞台はお正月のお雑煮だろうか。
うちのお雑煮はシンプルの極み。手抜きとちゃうよ。
澄まし仕立てに焼いた角餅と三つ葉くらいだ。
お正月の頃は、どんな気持ちだろうな、と思う。
今から半年。ムシャリラ企画開始から一年。
お椀がふふふ、と笑った気がした。
企画をずっと見ててくれてるnさんも。
明日仕込む分から、お弁当、はじめますよ。

ガラス玉のブレスレット

棒状のガラスをバーナーの火で少しずつ加熱して、
溶けたガラスをゆっくりと棒の先に溜める。
もう一種類も同じく少しずつ加熱して、
同じくらいの温度で軽く混ぜ合わせ、マーブル状にする。
球形になるまで加減して、火からはずして冷ます。
急激な温度変化に弱いガラスは、
ゆっくりあたためて、すばやく成形するのが骨法だ。
また、棒状のガラスは成分によって融点が違うので、
混ぜ合わせるときはそれを勘案して色を選ぶのだそうだ。

薄く曇った白と半透明の臙脂、乳白色と漆黒を組み合わせ
幾つかを鎖に並べた二種類のブレスレットにしようと思い、
色の混ぜ具合や大きさなどをいろいろ変えてみた。
金具はアンティークシルバーと言われる色で、
細かい目の鎖を白×臙脂、大振な目を白×黒に見立てた。

電気炉に入れると球はこぼしたミルクのように半円になる。
裏を鑢で仕上げて、金具をつける。
あとは構成するばかりのガラス玉たちと鎖と金具を、
白く薄い段ボール箱(工房に何かが届いたときのもの)に
並べて、蓋を開けてはにやにやしている。
鎖を二重にしてブレスレットにし、のばしたら
チョーカーにもできるように、玉を並べ替えてみたりする。

夏に吹きガラスをやってみて、
そのあまりに相手任せな部分に挫折した。と言うと、
あれは思うように出来るまでかなり経験が必要なんです、
と講師がなぐさめてくれた。
その点、とんぼ玉はいいですよ。
大きな設備は不要で、
道具や材料も今はネットで揃えられるし、
台所の一角でつくっている人間もたくさんいます、と。
今回のガラス玉は、とんぼ玉超入門編のようなものだが、
別冊太陽『ベネチアンビーズ』を見るまでもなく
最近はどこの店でも手の込んだとんぼ玉を扱っている。
気楽にはじめられ(素人でもある程度カタチになるし)、
やろうと思えばかなり作り込むこともできるからだろう。

それで漆のnさんのことを思った。
彼女は創作以外に一般向けの講座も担当しているのだが、
たぶん生徒たちが素材を手にした時間の何倍もかけて
カタチになるまで「妖精(こびとさん)の腕」を揮う。
生徒(私もそのひとり)は仕上がりにいたく満足し、
自分もなかなかやるじゃないか→漆っておもしろい、と。
だから彼女の講座はリピーターがとても多い。
受講生が増えるほどに彼女の負担は増大していくのだが、
たのしいと思ってもらえたら、とにこにこしているnさん、
いつもほんとうにありがとう。
近くひらかれる個展、
よきものになるよう祈って(願って、ではなく)います。

漆の杯、教えるということ

高台付きの、古典的な杯に漆を塗る。
木地屋さんがつくってくれた杯に、
布で補強し、目地をつめて、やすりがけ。
お下地の漆を塗って、やすりがけ。
そして仕上げの漆。

2つ組なので、ペアになるようにと考えた。
黒×黒のと、朱×朱にした。
(朱は器の内側だけ。外は2つとも同じ黒)
黒の下地をやすりがけして薄くなったところに、
同じ黒で模様を描く。朱も同様。
丸と曲線で構成した抽象的な模様にした。
柄は違うが、同じようなイメージを持たせる。
筆で正円を描くのは難しいが、面白い。
筆の跡はしばらくすると見えなくなる。
ガラスや陶器を相手の作成とは違って、
納得いくまで、自分のペースでできるのがいい。

すっかり漆のファンになってしまった。
食器でも、漆のものがあると寄って行く。
でも私の求めるものとは違う気がして、
未だうちの漆物は汁椀とお箸だけだ。
そして自分で作った拭き漆のスプーンが数本。

漆の講師nさんは、
失礼ながら教えるのに慣れているわけでもないが、
何か惹き付けられるものがある。
自分が大切に扱われているような気持ちになる。

たぶん何かを教えるということは、言い換えば
相手にわかりやすく説明するということで、成否は
相手をあらゆるレベルでよく見ているか、にかかってくる。
例えば道順を訊かれたようなときでも。
この人は何を知りたいのか。
どう説明したらこの人にしみ込むか。
相手をよく(時間ではなく、深度で)見ればわかってくる。
技術者として優秀でも、
教えるには向かないということは、
その人は相手をよく見ていないのだ。

革手(かわて)のにおい

手に革のにおいがうつった。
木工の作業中、刃物から手を守るために革で補強された手袋がある。革手、という商品名で、ホームセンターで売っている。安価である。私の使っているものは確か147円くらい。水色の革と白の綿地の組み合わせで、差し込み口のところは青い糸で細かくギャザーが寄せてある。質実剛健ながらキュートな姿である。

最近、どうも自分は木工が好きなのではないかと思いつき、のこぎりや卓上万力、彫刻刀など買いそろえた。師は市民工房で漆芸指導をしているsさんである。とてもたのしそうに、富山の方にある木地屋や彫刻刀屋の話をしてくださる。富山は欄間が伝統工芸で、優れた道具は高価ではあるがやはり違う、と素人の私に熱弁を振るう。

素人であってもゆっくりと作業がすすむうちに、少しずつ形になっていくのである。sさんの指導はほんとうに最小限で、講座に参加している面々が仕上げた木のスプーンは、作成者によって面白いほど雰囲気が違い、お互いなんども見比べたものだ。陶芸やガラスと違い、材料が自分を待ってくれて、納得いくまで加工できるところが気に入っている。

今は、木地をくりぬくための支え板をつくっている。講座で借りたものを模して、材料を買ってきた。ホームセンタには各種の木材がそろっているように見えるが、案外、手の加工に向く柔らかい広葉樹は少ない。角材をまっすぐに切るのがとても楽しい。効率主義者で、仕事のときはできるだけ無駄を省きたがる私なのに、一時間で20センチくらいしか進まない(ほんとうに初心者なのである)時間を楽しんでいる。

吹きガラスのコップをつくる

私の住む町には、市民に公開された工房がある。
吹きガラスや陶芸、漆芸などを体験することができる。

先日、吹きガラスの講座に参加した。
できあがったのはコップ二つ。
植木鉢のように優等生型(やや厚手)と、
個性のあるめがねくん(イメージです)だ。
細身で一見頼りなさそうだが、実は頑固者、
そんなめがねくんが好きだ。
って、それは人間の好みもそうだった。

ぽんて(成形のときに棒とくっついていた部分)は工房のひとがきれいにしてくれる。
二つ並んだコップを眺めてご満悦。
ちょうど季節の、真弓(花付き)を短くして挿す。
あたりは初夏の山の気配。
週末には各窓にすだれもかけたし、夏に向けてちゃくちゃくと準備がすすむ。
プロフィール

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